こさのこさいさい

地方FMパーソナリティの日記です。オモコロ杯2020銅賞いただきました。

図書館

君の街の図書館の、

 

一番静かな自習エリアへ行って、

 

わざとむつかしい顔で座るといい。

 

試験前の学生であるとか、

 

英字新聞を読む大人に雑じって、

 

誰より難儀そうに辞書を開くといい。

 

誰のために置いてあるかさえ分からないような、

 

何一つ用語を知らない専門の辞書があると尚いい。

 

そいつを片手で捲ったり擦ったりしながら、

 

徐に壁新聞用の模造紙と、

 

金色のイニシャルの入った万年筆を取り出して、

 

巨大なうんこの絵を描くと、

 

空気の成分の変わるのが分かるだらう。

 

どこからか息を呑む音が聴こえてくる。

 

君はもっともらしく寄せた眉根を崩さぬように、

 

巨大なうんこの絵を描き続ける。

 

今この周囲三メートルで誰より真摯にとぐろを描く。

 

開いた辞書の適当な用語を注釈として横に書く。

 

うんこの弧の長さを求める式を書く。

 

知らない教授の知らない論文を、

 

過去の資料と照らし合わせながら、

 

とかく一心にうんこの絵を描く。

 

さすれば君はこの図書館で、

 

運が良ければこの街で、

 

一番静かな馬鹿となる。

 

そうして君は気付くだらう。

 

誰に自慢するわけもなく、

 

ネットに曝すこともなく、

 

「図書館でうんこの絵を描く」ことが、

 

存外晴れ晴れするのだと。