恋愛と無縁でも携帯小説は書けるのか挑戦しました
ハロンガ こさいです。
私が中学生の頃、恋空をはじめとした
所謂 携帯小説が えげつないほど流行っていました。
クラスの女子の半分はあの分厚い上下巻を持っていたし、
かくいう私も全話読んで「高校生の恋愛って大変なんやな」と慄いたものです。
あれから早1X年、同級生が軒並み結婚&出産ラッシュの最中
学生時代と何一つ変わらない平穏な日常を送っています。
周囲からそれはそれでどうよ?といった圧を感じることも多くなりました。
とはいえ目下 結婚はおろか恋愛のれの字もない日々に何を見出せというのでしょう。
恋愛という概念を今一度見直す時機なのではないでしょうか?
そこで思い出したのが先述の携帯小説です。
ふと気になったのですが、
あれだけ学生界隈を席巻した携帯小説、今はどうなっているのでしょうか?
スマホやタブレットが主流になり、もしかしたらなくなってしまったのかも…。
調べてみると、なんと携帯小説投稿サイトはまだまだ現役。
私が知らなかっただけで、携帯小説は生きたコンテンツということがわかりました。
ざっと30作ほど一気読みしました。
※300~500ページの大作も少なくなく、たいへん驚きました。
やっぱり!!みんな恋愛している!!!
そして読めば読むほど、携帯小説の特徴、もとい共通点が見えてきたのです。
つまり、「携帯小説のメソッド」を踏まえれば
恋愛と縁のないアラサーの大人にも携帯小説が書けるのではないでしょうか!!
と、いうわけで 精一杯書いた私の携帯小説処女作を掲載いたします。
そして次の記事で、私なりに見出したメソッドなど詳しく言及していく予定です。
初めにおことわりしておきます。
最近食べた越冬ジャガイモが美味しかったので、
その感動を携帯小説にしました。
それでは、どうぞ。
*****
カラダも、ココロも、壊れそうに凍えていたあの冬。
あたしは彼とのあの出会いを。
あの甘さを、忘れない。
『トゥエット -To ETTO-』
*****
※このペースではいずれエンターキーが故障すると判断したため、ここから著しく改行が減りますがどうかご了承ください。
「アカリはホントにポテト好きだよね」
リョウの言葉に、ポテトをつまむ手が思わず止まる。
放課後、いつも寄ってる駅前のマック。
シェイクだけの日だってあるし、そんなに毎回食べてるわけじゃないんだけど、そう見えるのかな。
リョウはふふっと笑って、あたしのトレーからポテトを一本持っていった。
「ま、おいしいのは認めるけど」
「だよね?リョウだって好きじゃん」
「アカリほどじゃないし」
レジの向こうから聞こえてくる、テレレ♪テレレ♪のメロディに少しだけ気を取られる。
ほのかに揚げたての匂い。
「明日が楽しみだなっ」
「何かあるっけ?」
リョウはにやついている。
「昼休みさ、課題プリント持ってったときに、職員室で聞いちゃったんだよね。明日、転校生がうちのクラス来るんだって」
転校生?もう11月なのに、変な時期に入ってくるんだ。
「男子だって!きっとアカリ、好きになっちゃうよ」
「あは…ないない!あたし、恋愛はしばらくいいから」
「いーや!うちには分かる。もうさ、元カレのことは吹っ切れると思うから!」
リョウ、心配してわざとおどけてるのかな。
ありがと……リョウ。
でも、今は本当に恋とかできないよ。
外は雪が降ってきて、夕陽の中でキラキラ光っている。
駅前のイルミネーションが雪を照らしてる。
同じ制服のカップルが、イルミデートしてるのが見えた。
ぎゅっと胸が苦しくなる。
本当だったらあたしも……って俯きかけたら、食べかけのポテトが目にとまった。
食べよ……
「しょっぱい」
「そこが良いんでしょ?」
「まあね」
口の中のポテトは、さっきよりモソモソしている。
羨ましくなんて、ない。
*****
北野 朱莉(キタノ アカリ)
17歳、先月彼氏に振られたばかり。
成績は、中くらい。ルックスも普通…だと思う。
料理部に入ってたけど、別れた彼がずっと出席してるからしばらく休んでる。
中学から親友の諒子…リョウもいるし、やめるつもりはないんだけど、やっぱり今は気まずい。
振られた理由?
他に好きなコができたって。ありきたり。
そんな予感はしてたけど、やっぱり……傷ついた。
なんて、顔には出さなかったけど。
あたしは単純キャラと思われてるから、分かりやすく落ち込んだら何だか負けだと思ったから。
それに、彼の新しい彼女さんが気にしてたら悪いし。
あたしだって空気くらい読める。
だから今は恋とかしたくないって思う。
また傷ついたら、今度こそ立ち直れないかもしれないから。
って決めたのに。
運命なんてないと諦めていたのに。
君は……ズルい。
*****
「氷室 暁(ヒムロ アカツキ)です」
やって来た転校生は、ジャガイモだった。
田舎臭いとか、そういうことじゃなくて、本当のジャガイモ。
それに見た目も別に…カッコいいわけじゃない。
シワも多いし、何となく色も良くないし。
リョウはどんなつもりで、あたしに恋の予感だなんて思ったんだろ?
いくらあたしがポテト好きだからって、何でもいいわけじゃないのに。
「氷室は、北野の隣な」
彼はあたしの右隣に座ると、冷たい視線を向けてきた。
「イケメンじゃなくて悪かったな?」
ニッて、意地悪な笑み。
ちょっとだけ見透かされたような、透明な瞳と目が合う。
顔っていうか、野菜の同級生が初めてなんだけど。
でも見た目で判断するのはなって、あたしも精一杯笑ってみる。
「別にそんなこと。…よろしく、北野朱莉…です」
「そっか。良い名前だな」
「そかな?初めて言われた」
「俺も初めて言ったし」
「なにそれ」
変な男のコだな。でも、名前を褒められたのは素直に嬉しかった。
先生に頼まれて、学校を案内しながら話しているうちに。
胸の奥につかえていた想いが、ゆっくりとかされてく感じがした。
*****
テレレ♪テレレ♪テレレ♪……
「ついに連れて来たね、やるじゃんアカリ♪」
「別に、普通に友達として来たんですけど。ね?ツキくん」
彼が、あたしとリョウとの放課後マック会に参加するようになったのは、転校してきて2週間たった頃。
ポテトとナゲットを注文して、3人でつまみながら下らない話で盛り上がる。
学校ではクールであまり喋らないけど、それは人見知りだからだって照れくさそうにしている。
「へー、ツキくんって呼んでるんだ」
「リョウ…からかわないでよ」
「氷室くんって呼んでたけど、よそよそしいからニックネーム付けてって頼まれただけだし」
アカツキくんじゃ長かったから、ツキくん。
呼んでみたら、ツキくんはとても嬉しそうに笑ってくれたっけ。
「氷室くんはアカリのことなんて呼んでんの?」
「ん?ふつーに、アカリちゃんだよ」
実はこれはウソだ。
ツキくんはあたしと二人きりのときだけ、『アーリ』って呼んでくる。
その方が仲良い感じ出るじゃんってツキくんは言った。
だからあたしもツキ、て呼び捨てにしてる。でも恥ずかしいからリョウにも内緒。
悔しいけどリョウの読み通り、あたしはこの2週間で少しずつツキが特別に感じ始めていた。
あんまり愛想は良くないけど本当は優しい男のコ。
学校のみんなには、ツキの魅力がバレませんようにと願ってしまう。
たまに見せるちょっと悪戯っぽい笑顔を、他のコに見られたくない……彼女でもないのに重いって、わかってる。
だけどどうしても、独占欲が芽生えてしまう。
余裕なんてないよ……。
「に、してもやっぱりアカリってポテト好きだよね」
「え?」
ヤバ、二人の話し全然聞いてなかった。
顔を上げると、リョウもツキもにやにやあたしを見ている。
「ボーっとしててもポテト食べる早さ変わんないもん」
「あ…ごめん」
「アカリちゃん、フライドポテトが一番好き?」
不意にツキの『好き』に、肩が揺れる。変な意味じゃないってわかってるのに。
「う、うん。特に揚げたてがサクサクしてて美味しいし好きだよ…?」
「そうなんだ…」
なんとなく、ツキが少し寂しそうな顔をしたように見えた。
答え方、不自然だったかな?リョウは何も思ってないみたいだけど。
「あ、イルミ始まってんじゃん!ごめん、うち今日早く帰んなきゃだった。弟に夕ご飯用意しないとだから、じゃあね!」
外のイルミネーションがいつの間にか点灯していて、すっかり暗くなっていた。
リョウが慌てて出て行く背中に、店員さんが「ありがとうございましたーっ」と元気に声をかける。
急にツキと二人きりだ。そう思ったら、急に緊張してきた。
「アーリ、イルミ見に行こ?見ながら話し……したい」
「え……いいけど」
最後のポテトをつまみながら見たツキの目は、今まで見たどんなツキより真剣だった。
*****
駅前のイルミネーションは相変わらず綺麗。
カップルもたくさん見に来ているけど、前ほど胸が痛んだりしないのは、ツキが隣にいるからかな……。
「実は、諒子ちゃんから聞いたんだ。アーリが元カレのせいで、大好きな部活に行けてないって」
ツキの瞳に色とりどりのイルミが反射して、その真ん中にあたしが映っている。
それくらい近付いた、距離。
「アーリ、俺……」
「ツキ……?!」
ぐいっと腕を引かれて、気が付けばツキの胸に顔をうずめていた。
ごつごつした体。ちょっとだけ香る土の匂い。
ツキが男子なんだって改めて実感してしまう。
「俺、アーリが好きだよ」
「あ……あたしも、ツキが好き…!」
まるで喉に新しい心臓ができたみたいにドキドキして、声が震える。
ツキが、好きって。
あたしのことを、ツキが……
涙が溢れてくる。
発芽したツキのくぼみに、あたしの涙が落ちて流れた。
「好きになっちゃいけないのに……やっぱり伝えたくて」
「え……好きになっちゃいけないって、なんで…?」
「俺、次の春まで生きられないんだ。だから、アーリのこと……ずっとは、護ってやれない」
ぎゅっ……。
体の震えを隠すように、ツキの抱きしめる力が強くなる。
「黙っててゴメン。俺、越冬野菜なんだ」
「エットウ…ヤサイ?」
「うん。寒さから体を守るために、俺の中のデンプンが糖に変わってる。今が俺の旬なんだ、春になれば、もう…」
「そんな……おいしく、なくなっちゃうの?」
ツキが弱々しくうなずいた。
とても心細そうで、たまらない気持ちになる。
「あたしにできること……何でも言ってよ、ツキ。ツキのためなら頑張れるから!」
「ありがと、アーリ。じゃぁ……いっこだけ、頼み…聞いて?」
「なに……?」
「……アーリに俺を料理してほしい。俺の体…フライドポテトには向かないけど」
寂しそうに笑う、ツキ。
バカ。フライドポテトじゃなきゃ好きじゃないなんて言ってないのに。
越冬野菜が一番美味しくなる料理、絶対探してみせるのに。
「あたしで、いいの?」
「アーリがいい。俺を料理して、そのために……部活に戻れよ。アーリの大好きな料理部に」
「…ツキ、優しすぎるよ……」
あたし達は指切りをして……そっと、触れるだけのキスをした。
この時間が永遠に続けばいいのに。
あたしにできることは、ツキを……
一番美味しい料理にすること、だから。
*****
春が来た。
舞い散る桜の中を、キミの思い出と共に歩いて行く。
「……ツキ」
ツキは、グラタンになった。
フランスの郷土料理、グラタン・ドゥフィノワに。
甘くて、優しくて、ツキは最期までツキだったよね。
「アカリー!」
自転車で追いついたリョウに振り向いて、あたしは笑ってみせた。
ツキ、あたしは大丈夫だよ。
料理部にも復帰できた。
まだ少し寂しいときもあるけど、そのたびに温かいグラタンの味を思い出せているから。
キミが、傍にいるから。
《完結》
あなたには、好きな料理がありますか?
あなたにとっての『ツキ』は、きっとすぐ傍にいます。
(kosai)
*****
はい。
ありがとうございました。
いかがでしたでしょうか、雰囲気は出せていましたか?
先の通り、私が発見したメソッドは次回 この作品の解説を交えてご紹介します。
というか ここまで読んでくださった方、女神では?
切に切に、
読んでくれてアリンガ。